死を目前にひかえた、祖母と一緒に
87歳になる祖母は、つい2ヶ月前まで青森県で一人暮らしをしていました。
自宅から近い、老人ホームへ入る順番待ちをしていました。
(住み慣れた青森から出たくないというのは、祖母の希望でした。)
祖母の暮らしぶりは、立派なものだったと思います。
掃除が苦手な人ですが、一人でお風呂に入り、トイレにいきました。庭には、たくさんの野菜を植え、毎日花に水やりをしていました。
料理を作ることや、買い物はデイサービスを利用し、サポートを受けていました。
「もう火を使うのはやめてデイサービスの人に作ってもらったものや、お惣菜を買え!」
という、父(祖母の実息子)の話は無視して、自分で育てたほうれん草を茹でたり、庭で採れるミョウガを焼いて味噌をつけて食べたりしていました。
ボケが始まっていたので、ガスは自動消火機能がついたものに変えました。煙が出た際の警報機も大きな音のものをとりつけました。
祖母は、数年前から肝臓に癌がありましたが、そんなことを忘れさせるくらい元気な人でした。
3ヶ月ほど前のこと。
父が病院から呼ばれました。そこで
「もう、積極的な癌の治療はやめて緩和治療に切り替えます。」
という説明を受けました。
祖母は、青森から離れたくないと言い続けていたのに、私たちが住む宮城県に引っ越したいというようになりました。
体の不具合を察知し、心細くなったのでしょうか。
ちょうど、両親の家の近くの施設に空きがあったので、祖母は慌ただしく、施設を見学しにきました。
自分の足で、しっかり歩いて見学をしました。
そうして祖母は、4月の初旬に87年間生活をした、青森を離れました。
祖母が宮城県に来てすぐのこと。
我が家で、私の家の新築祝い(いや、中古購入祝い?リノベーション祝い?なんていうんだろう)、私の息子の小学校入学祝い、祖母の誕生日祝いを一緒に行いました。
祖母はお寿司を
「美味しい、美味しい。」
と食べました。
施設に入ってからも
「りかの家で、おもてなししてもらって楽しかった。」
というので、嬉しい気持ちになりました。
施設に入った祖母は、ジェットコースターを下るように弱りました。
歩けるのだから、散歩に出かけたっていいのに、施設から一歩も出ず小さな部屋で過ごしました。
車椅子で祖母を散歩に連れていくと
「風が気持ちいい。」
といって、体を前のめりにしたりしました。
2週間前には、お腹に水が溜まってきて、座っているのも辛いと言うようになりました。車椅子には乗れません。
その後、苦しさを取り除くために腹水を抜いたのですが、すでに部屋を出る気力が無くなってしまったようです。
1週間前には、立ち上がることが難しくなって、ベットの横にトイレが置かれました。
3日前には、自分で立ち上がろうとして、転んでしましました。
そして今、鼻には酸素を送り込むチューブを入れられ、尿を出す管と取り付けられて、寝たきりになっています。
今日、
「もう、旅立ちの準備に入りました。」
と、医師に言われました。
明日、祖母に会いにいきます。
祖母は、自分の死期を悟っているようです。
昨日は、母に手を合わせ
「ありがとう、ありがとう。」
と繰り返しお礼を言っていたそうです。
私は、死を目前にした祖母にどんな言葉をかければいいのか、悩んでいます。
少し前、このブログに祖母は死に対する恐怖が少ないように見える、と書いたことがあります。
祖母は
「いつ死んだっていい。何にも怖くない。おじいちゃんもいるから。」
と言います。
今、果たして本当にそうなんだろうか?と自問しています。
以前と違って「祖母は、本当は死が怖いのかもしれない。」と言う考えが私の頭をもたげています。
祖母は、もう、若い頃のように体が動くわけでもなく、たくさんの希望を抱えているわけでもありません。
祖母が、貪欲に「生」を求めないから、私は「死」を受け入れているように錯覚してしまったのかもしれません。
小さくなった祖母を見ていたら『一人で得体の知れぬ「死」へ挑む恐怖』を感じているような気がしてきたんです。
だとしたら
「一人で死に挑むわけじゃないよ。一緒だよ。」
と伝えたいのです。
私が死ぬわけじゃないから、一人で死に挑むわけじゃないよというのも変ですが、死に向かう祖母を孤独な気持ちにさせたくないな、と。
どう話せば、私の気持ちが伝わるのか、わかりません。
何も伝えられず、祖母の近くにいるだけになるかもしれません。
何か、祖母が話せるようだったら、うんうんそうだねって、聞くだけになるような気もします。
少なくとも
「早く良くなってね!」
とか
「大丈夫だよ、良くなるよ。」
とは言わないと思います。
死に向かうことを悟っている祖母を、もっと孤独にしてしまう気がするのです。
「ねえ。この管が外れたら、また一緒に散歩にいかない?」
くらいだったら、いいのだろうか。
そんなことを考えて、眠れない夜です。